先日、因州和紙の産地・佐治町を越え、秋の深まる山あいの静けさに包まれた智頭町を訪れました。

智頭町の山里に佇む石谷家住宅では、庭園の紅葉が最も鮮やかな季節を迎えています。
枝先から徐々に色づき始めたモミジは、赤や橙、黄のグラデーションを描き、黄金色に輝く大イチョウとの対比が、まるで季節の絵画のようです。
国指定重要文化財に指定されたこの建物では、通常は内部からしか庭園を眺めることができません。しかし、年に一度、紅葉の頃に限って庭に下り、苔むした石畳や池のほとりを散策することができます。


庭園を歩くと、枝先に残る色づいた葉が光を受けて柔らかく揺れ、庭が秋の穏やかな風景に包まれているようでした。
大イチョウの堂々とした姿は、古建築の重厚さと相まって、庭園全体に深い静けさと季節の移ろいを感じさせます。この特別公開のひとときは、庭園と建物が時を超えて呼応する、智頭ならではの秋の風景を堪能できる貴重な体験です。

庭園を歩きながら秋の光に包まれるなか、石谷家住宅ではさまざまなイベントも開催されており、「鳥取木工芸振興会 展示即売会」では様々な木材工芸品が並んでいました。その中で偶然目に留まったのが杉灯籠でした。


近くで見ると、その灯籠には因州和紙が用いられており、この土地の自然素材と伝統技術が思いがけないかたちで結びつき、今も静かに受け継がれていることに深い感慨を覚えました。
素材の採取、紙漉きの営み、木工の技術——それぞれの手仕事が長い時間をかけて育まれ、その成果が暮らしのなかにそっと寄り添う。この循環のなかに、因州和紙の奥行きと魅力をあらためて感じた秋の一日でした。
智頭の秋は、紅葉の美しさだけでなく、杉灯籠や因州和紙に象徴される手仕事の温もりとともに味わえる特別な季節です。
この秋、ぜひ庭園を歩き、紅葉と工芸が織りなす智頭の風景を味わってみてください。

石谷家住宅とは
石谷家は江戸時代から地域の発展に貢献してきた家柄で、明治期には商業や山林経営を通じて町の発展にも尽力しました。
現在の住宅は、大正時代に石谷伝四郎が建てた大規模な木造家屋で、広い座敷や庭園、精巧な建築技術が見どころです。近世から近代にかけての建築の変遷を伝える貴重な文化財です。
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石谷家住宅 |