手仕事がつなぐ、文化の記憶

手仕事がつなぐ、文化の記憶

—— 鳥取市歴史博物館「とっとりのお宝おひろめ」より

 

鳥取市歴史博物館では現在、「とっとりのお宝おひろめ」が開催されています。
この展覧会は、毎年新たに鳥取県の文化財に指定・選定・認定された品々を紹介し、県内各地に受け継がれてきた“お宝”を広く伝えることを目的としています。

展示は多彩で、建造物や工芸、考古資料、庭園など、地域文化の奥深さを感じさせてくれます。
たとえば、保護文化財「牡丹獅子文金唐革包腰取二枚胴具足」をはじめ、安楽寺本堂向拝海老虹梁や矢田貝氏庭園、「三十六歌仙図額」など、時代や分野を超えて受け継がれてきたさまざまな“お宝”を一堂に見ることができます。

中でも特に注目したいのが、選定保存技術「手漉和紙用具(簀)制作」の保持者、小畑文子(おはた・ふみこ)さんの仕事です。

手漉和紙用具とは、漉き槽(舟)の中で和紙の原料を水に溶かした紙料をすくい上げる簀(す)と簀を支える桁や竹片子、萱片子、編糸、桁の金具類(助手金具・掛け金・束釘)などの道具のことです。
紙の質感や表情を決める大切な道具であり、和紙づくりの根幹を支える存在でもあります。
今回、小畑さんは鳥取県で初めて「選定保存技術保持者」として認定されました。

小畑さんは母のもとで簀編みを学び、50年以上にわたり竹と絹糸を組み合わせ、和紙職人の要望に応じた多様な簀を作り続けてきました。
展示では、簀の製作用具や完成品が紹介され、手漉和紙の製作過程における精緻な技術や工夫を間近で見ることができます。

和紙の美しさは、漉き手だけでなく、それを支える道具と技術によっても支えられています。
青谷や佐治をはじめ、石州や全国の和紙産地で小畑さんの技術が頼りにされてきたことは、長年にわたる信頼の証です。

文化財を支えるのは、目に見える作品だけではありません。
素材を選び、道具を整え、技を継ぐ人々の静かな努力があってこそ、私たちは伝統文化の息吹に触れることができます。
「とっとりのお宝おひろめ」は、こうした“手の記憶”を感じさせてくれる貴重な機会でもあります。

作品の美しさの奥にある、受け継がれてきた技と人の営みにも思いを馳せつつ、ぜひ会場でじっくりとご覧ください。

とっとりのお宝おひろめ
会期:2025年11月8日(土)〜12月21日(日)
会場:鳥取市歴史博物館やまびこ館(入場無料)
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