和紙が映す、静かな創造の力
― 「ちぎり絵展 ~和紙の愉しみⅩ~」に寄せて ―
あおや和紙工房で開催中の「ちぎり絵展 ― 和紙の愉しみⅩ ―」を訪れました。
会場に足を踏み入れた瞬間、ふわりと空気がやわらぎ、
壁に並ぶ作品の一枚一枚が、静かな呼吸をしているように感じられました。
展示会の案内文をあらためて読むと、
そこには素材としての“和紙”を超えた、文化としての和紙へのまなざしが確かに息づいています。
和紙の優しくやわらかな風合い。
その触感や微かな色のにじみが、作り手の感性に寄り添い、
作品の奥にある心の動きまで映し出していく。
その過程にこそ、手仕事が紡ぐ創造の原点があるのだと、作品を前にして改めて感じました。
因州和紙の「染」の技が、いまもなお
ちぎり絵という現代の表現の中で生き続けていること。
それは、伝統が「保存」ではなく「継承」として息づいている証でもあります。
色や形だけでなく、その背後に流れる“時間”を見つめるとき、
和紙は単なる素材ではなく、記憶を宿す存在へと変わります。
職人の手が漉き、染め、乾かし、
作家の手がちぎり、重ね、思いを託す。
その積層のなかに、和紙という素材の静かな力が確かに息づいていました。
和紙は、声高に自己主張することはありません。
けれど、触れた者の心に深く残る。
その控えめな美しさこそが、この展覧会の名にある「愉しみ」の本質なのだと感じます。
静かな空間に流れる光と和紙の色。
その調和の中に、日本の美がひっそりと息づいていました。
本展は、11月16日(日)まで、あおや和紙工房にて開催されています。
秋のひととき、和紙が語りかける創造の世界に、ぜひ足を運んでみてください。
ちぎり絵展 ~和紙の愉しみⅩ~
会場:あおや和紙工房 企画展示室 |